銀河ビズ-WEBマガジン「きゅん」

kyun.biz
最新号11月10日配信予定
イラスト
GingaBiz
編集部より

「今夜は眠れません」
「旅先の駅で見た夕焼けが忘れられません」
そんな便りが届く。
DJは静かに応えていく。
「眠れない夜は、心が遠くを散歩している夜なのかもしれません」
「その夕焼けは、あなたを想う誰かも、見ていたんですよ」
夜一時。
小さな放送室にはDJが一人だけいた。
古いマイク。
擦り切れたレコード。
窓の外には静かな雨。
そして机の隅には、いつものジャーポット。
湯気を立てながら、ぽつんと置かれている。
番組名は『僕たちの時』。
大きなスポンサーもない。
有名なゲストも来ない。
けれど長年聴いてくれるリスナーがいた。
DJは放送の合間に、よくポットからお湯を注いだ。
コーヒーを入れるためだったり、お茶を飲むためだったり。
寒い冬の夜には、それだけで少し救われる。
ある夜、リスナーからこんな手紙が届いた。
「私は毎晩、一人で仕事をしています。放送の向こうで誰かがお茶を飲んでいる音を聞くと、自分も一人ではない気がします。」
DJは手紙を読み終えると、少し黙った。
それからポットのお湯をカップに注いだ。
コポコポという小さな音が放送に乗る。
「実はね」
DJは笑った。
「この番組の本当の相棒は、このジャーポットなんです。」
誰もいない放送室。
眠らない町。
静かな深夜。
その真ん中で、ポットだけが変わらず温かいお湯を用意してくれる。
放送が終わる頃には夜明けが近い。
DJは最後の曲を流しながら、空になったカップを見つめた。
ポットの保温ランプはまだ点いている。
まるで、
「おつかれさま」
と言っているようだった。
その夜もまた、多くの人が眠れない時間を過ごしていた。
けれど誰かはコーヒーを飲み、
誰かはお茶を入れ、
誰かはラジオを聴いていた。
そして放送室では、DJとジャーポットが静かに朝を待っていた。
それが『僕たちの時』だった。
特別ではないけれど、
確かに温かい時間だった。

連載コンテンツ
更新日 8月10日

ノブを回して、キスをして

恋人よ、そばにいて

更新日 8月10日

微笑みのイントロ

光の観覧車

更新日 8月10日

サンドレスを着た女

屋根の上で

更新日 8月10日

魔法同盟へようこそ

未来を翔ける

連載終了・期間限定で連載第1回を公開中!

想いの町

真夜中のスキップ

連載終了・期間限定で連載第1回を公開中!

風車と怪人

キリギリスの話

essay
更新日 8月10日

愛せよ乙女

心優しき者たちの聖夜

更新日 8月10日

僕たちの時

DJとジャーポット

好評発売中
Novel 小説
もう教祖しかない!
きゅん・いん
残花繚乱
駄菓子屋のネオン
月蝕楽園
荒野のランナー
リップステイン
炎のマウンテンバイク
二千七百の夏と冬 上
雑踏の隠れ家
二千七百の夏と冬 下
バースディ
星星の火
恋の呪文
決断
恋のクリンナップ
デッドエンド
涙のカラオケ
スマドロ
風と共に去りぬ
紅けむり
炎のナレーション
ケモノの城
白い子猫の話