銀河ビズ-WEBマガジン「きゅん」

kyun.biz
最新号11月10日配信予定
イラスト
GingaBiz
編集部より

毛糸玉の話とバースデー
冬の終わりの午後、私は祖母の部屋で古い毛糸玉を見つけた。
赤、青、黄色、緑。
いくつもの色が絡まり合い、箱の中で小さな星のように眠っていた。
今日は母の誕生日だった。
けれど、何を贈ればいいのか決められずにいた。
高価なものを買う余裕はない。
それに母は、欲しいものを尋ねてもいつも笑って首を振るだけだった。
毛糸玉を手に取ると、指先にかすかな温もりが残った。
祖母が生きていた頃、母のために編んだマフラーの残りだと、母から聞いたことがある。
けれどマフラーは、母が幼い頃にどこかへ失くしてしまったらしい。
私は毛糸をほどき始めた。
絡まりはなかなか解けなかった。
強く引けば切れてしまう。
ゆっくり、結び目を一つずつ指で探るしかない。
その作業をしているうちに、私は母のことを考えた。
忙しい朝に弁当を作ってくれたこと。
雨の日には駅まで傘を持って迎えに来てくれたこと。
私が失敗して落ち込んだ夜、何も聞かずに温かいお茶を置いてくれたこと。
母の愛情も、この毛糸のようだった。
目立たず、何重にも絡まりながら、いつも私のそばにあった。
夕方までかかって、私は毛糸を小さな輪に編んだ。
不格好なブローチだった。
中央には赤い糸を置き、周りを青と黄色で囲んだ。
母が帰宅すると、私はそれを差し出した。
「お誕生日おめでとう」
母はしばらく黙って、ブローチを見つめていた。
やがて指先でそっと触れ、笑った。
「おばあちゃんの毛糸ね」
「うん。残っていたから」
母はブローチを胸元につけた。
赤い糸が、夕暮れの光を受けて小さく輝いた。
「ありがとう。これ、ずっと持っていたかった」
その言葉を聞いて、私は初めて気づいた。
誕生日は、誰かが生まれた日であるだけではない。
受け取ったものを、次の誰かへ渡していく日でもあるのだ。
窓の外では、冬の風が静かに吹いていた。
母の胸元で、毛糸の小さな輪が揺れている。
ほどけかけた記憶を結び直すように、
家族の時間は、これからもゆっくり編まれていくのだった。

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