銀河ビズ-WEBマガジン「きゅん」

kyun.biz
最新号11月10日配信予定
イラスト
GingaBiz
編集部より

「笑えばいいさと白い子猫の話」
商店街の裏通りに、一匹の白い子猫がいた。
まだ小さくて、耳は少し大きく、しっぽはまるで筆のようだった。
近所の人たちは、その子ねこを「シロ」と呼んでいた。
シロには不思議な癖があった。
誰かが落ち込んでいると、どこからともなく現れるのだ。
八百屋のおじさんが雨続きで元気をなくしているときも。
受験勉強で疲れた高校生が公園のベンチに座っているときも。
なぜかシロは、ふらりとやって来る。
そして特別なことは何もしない。
足元に座ったり、あくびをしたり、しっぽを揺らしたりするだけだった。
ある日、古本屋を営む高橋さんが店の前でため息をついていた。
大切にしていた本が雨で傷んでしまったのだ。
「まいったなあ。」
そうつぶやいたとき、シロが現れた。
そして店先に積まれた段ボールへ飛び乗ろうとして――。
見事に失敗した。
ぺたり。
そのまま転がってしまった。
高橋さんは思わず吹き出した。
シロは何事もなかったような顔で立ち上がり、また挑戦する。
また失敗する。
それでも平気そうだった。
高橋さんは笑いながら言った。
「そうか。まあ、笑えばいいさ。」
その言葉を聞いたシロは、まるで満足したように小さく鳴いた。
夕方になると、子どもたちが集まってきた。
シロは人気者だった。
けれど誰も捕まえられない。
少し遊ぶと、いつの間にか姿を消してしまう。
まるで風のように。
その夜、高橋さんは店を閉めながら思った。
人生には、どうにもならないことがある。
失敗する日もある。
落ち込む日もある。
でもそんなとき、
段ボールに飛び乗ろうとして転ぶ白い子猫のことを思い出せばいい。
少しくらい笑えるかもしれない。
そして笑えたなら、その日はもう十分なのだ。
月明かりの下、白い子猫はどこかの路地を歩いていた。
次に元気のない誰かを探しながら。🐈‍⬛🤍

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