「笑えばいいさと白い子猫の話」
商店街の裏通りに、一匹の白い子猫がいた。
まだ小さくて、耳は少し大きく、しっぽはまるで筆のようだった。
近所の人たちは、その子ねこを「シロ」と呼んでいた。
シロには不思議な癖があった。
誰かが落ち込んでいると、どこからともなく現れるのだ。
八百屋のおじさんが雨続きで元気をなくしているときも。
受験勉強で疲れた高校生が公園のベンチに座っているときも。
なぜかシロは、ふらりとやって来る。
そして特別なことは何もしない。
足元に座ったり、あくびをしたり、しっぽを揺らしたりするだけだった。
ある日、古本屋を営む高橋さんが店の前でため息をついていた。
大切にしていた本が雨で傷んでしまったのだ。
「まいったなあ。」
そうつぶやいたとき、シロが現れた。
そして店先に積まれた段ボールへ飛び乗ろうとして――。
見事に失敗した。
ぺたり。
そのまま転がってしまった。
高橋さんは思わず吹き出した。
シロは何事もなかったような顔で立ち上がり、また挑戦する。
また失敗する。
それでも平気そうだった。
高橋さんは笑いながら言った。
「そうか。まあ、笑えばいいさ。」
その言葉を聞いたシロは、まるで満足したように小さく鳴いた。
夕方になると、子どもたちが集まってきた。
シロは人気者だった。
けれど誰も捕まえられない。
少し遊ぶと、いつの間にか姿を消してしまう。
まるで風のように。
その夜、高橋さんは店を閉めながら思った。
人生には、どうにもならないことがある。
失敗する日もある。
落ち込む日もある。
でもそんなとき、
段ボールに飛び乗ろうとして転ぶ白い子猫のことを思い出せばいい。
少しくらい笑えるかもしれない。
そして笑えたなら、その日はもう十分なのだ。
月明かりの下、白い子猫はどこかの路地を歩いていた。
次に元気のない誰かを探しながら。🐈⬛🤍
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風車と怪人キリギリスの話 |
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