「磯浜ファッションと恋のクリーンナップ」
磯浜は小さな海辺の町だった。
朝になると漁船が戻り、午後には潮風が商店街を吹き抜ける。
その商店街の外れに、「磯浜ファッション」という小さな洋服店があった。
店主の夏子は、流行よりも「その人らしく見える服」を選ぶのが得意だった。
ある春の日、一人の青年が店を訪ねてきた。
「今度、久しぶりに好きだった人に会うんです。」
そう言いながら、彼は照れくさそうに笑った。
夏子は何着か服を見繕ったが、青年はどれを着ても落ち着かない様子だった。
「服の問題じゃないみたいですね。」
「え?」
「心の中に、まだ片付いていないものがあるんじゃないですか。」
青年は黙り込んだ。
実は数年前、好きだった女性と気まずい別れ方をしていた。
謝れないまま時間だけが過ぎていたのだ。
数日後。
海岸では町内会の浜辺清掃が行われた。
その名も「恋のクリーンナップ大作戦」。
なぜそんな名前なのか誰も知らないが、毎年そう呼ばれていた。
青年も参加した。
流木を集め、空き缶を拾い、砂浜に埋もれた古いロープを引き上げる。
作業を続けるうち、不思議と心も軽くなっていった。
そして清掃の終わり頃。
海辺の向こうから一人の女性が歩いてきた。
かつて好きだった、その人だった。
二人はしばらく波を見つめたあと、ほぼ同時に言った。
「ごめんなさい。」
それからまた笑った。
長い時間が流れたせいか、謝る言葉は驚くほど素直に出てきた。
夕方。
青年は磯浜ファッションで選んだシャツを着て海辺を歩いた。
潮風が少し強かった。
店先に立つ夏子はその姿を見て、小さくうなずいた。
服をきれいにすることはできる。
浜辺をきれいにすることもできる。
そして時々、人の心も少しだけ片付く。
磯浜の夕焼けは、その日の海を静かに染めていた。
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風車と怪人キリギリスの話 |
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