銀河ビズ-WEBマガジン「きゅん」

kyun.biz
最新号11月10日配信予定
イラスト
GingaBiz
編集部より

「磯浜ファッションと恋のクリーンナップ」
磯浜は小さな海辺の町だった。
朝になると漁船が戻り、午後には潮風が商店街を吹き抜ける。
その商店街の外れに、「磯浜ファッション」という小さな洋服店があった。
店主の夏子は、流行よりも「その人らしく見える服」を選ぶのが得意だった。
ある春の日、一人の青年が店を訪ねてきた。
「今度、久しぶりに好きだった人に会うんです。」
そう言いながら、彼は照れくさそうに笑った。
夏子は何着か服を見繕ったが、青年はどれを着ても落ち着かない様子だった。
「服の問題じゃないみたいですね。」
「え?」
「心の中に、まだ片付いていないものがあるんじゃないですか。」
青年は黙り込んだ。
実は数年前、好きだった女性と気まずい別れ方をしていた。
謝れないまま時間だけが過ぎていたのだ。
数日後。
海岸では町内会の浜辺清掃が行われた。
その名も「恋のクリーンナップ大作戦」。
なぜそんな名前なのか誰も知らないが、毎年そう呼ばれていた。
青年も参加した。
流木を集め、空き缶を拾い、砂浜に埋もれた古いロープを引き上げる。
作業を続けるうち、不思議と心も軽くなっていった。
そして清掃の終わり頃。
海辺の向こうから一人の女性が歩いてきた。
かつて好きだった、その人だった。
二人はしばらく波を見つめたあと、ほぼ同時に言った。
「ごめんなさい。」
それからまた笑った。
長い時間が流れたせいか、謝る言葉は驚くほど素直に出てきた。
夕方。
青年は磯浜ファッションで選んだシャツを着て海辺を歩いた。
潮風が少し強かった。
店先に立つ夏子はその姿を見て、小さくうなずいた。
服をきれいにすることはできる。
浜辺をきれいにすることもできる。
そして時々、人の心も少しだけ片付く。
磯浜の夕焼けは、その日の海を静かに染めていた。


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