銀河ビズ-WEBマガジン「きゅん」

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最新号11月10日配信予定
イラスト
GingaBiz
編集部より

「のど飴ちょうだいと風と共に去りぬ」
秋の終わりだった。
駅前の並木道を吹き抜ける風が少し冷たくなり、人々はコートの襟を立てて歩いていた。
古本好きの佐伯は、その日も小さな読書会へ向かっていた。
課題の本は、古い名作『風と共に去りぬ』。
だが会場へ着くなり、彼は困った顔になった。
風邪気味だったのだ。
咳をこらえながら席につくと、向かいに座っていた女性が小声で言った。
「大丈夫ですか?」
「少し喉が…。」
すると彼女は鞄をごそごそ探し、小さな缶を差し出した。
「のど飴、ちょうだいって言われる前にどうぞ。」
佐伯は思わず笑った。
飴はレモン味だった。
読書会が始まる。
登場人物の強さや弱さ、愛することの難しさについて話し合ううち、喉の痛みも少し忘れていた。
休憩時間になると、窓の外で落ち葉が風に舞っていた。
その様子を見ながら彼女が言った。
「この小説の題名って、なんだか今日みたいですね。」
佐伯はうなずいた。
風は何かを連れ去る。
季節も、時間も、若さも。
けれど不思議なことに、何かを運んでくることもある。
たとえば偶然の出会いとか。
たとえば一粒ののど飴とか。
読書会が終わる頃には、空はすっかり夕暮れ色になっていた。
帰り道。
佐伯は缶を返そうとした。
すると彼女は首を振った。
「持っていてください。また喉が痛くなるかもしれませんから。」
「じゃあ、返す代わりに。」
「はい?」
「次の読書会でコーヒーをごちそうします。」
彼女は少し考え、それから笑った。
「それなら、喜んで。」
風が二人の間を通り過ぎた。
何枚かの落ち葉が空へ舞い上がり、そのまま遠くへ消えていく。
けれど、その日始まった小さな物語だけは、風と共に去らなかった。

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