「放送部と炎のナレーション」
その高校の放送部には、不思議な言い伝えがあった。
文化祭の前夜、誰もいない放送室で原稿を読むと、その声に特別な力が宿るというのだ。
もっとも、ほとんどの生徒はそんな話を信じていなかった。
放送部二年の遥も、その一人だった。
彼女は原稿を書くのは好きだったが、人前で話すのは苦手だった。
声が震える。
緊張すると早口になる。
だから毎年、文化祭の司会役は別の部員が担当していた。
ところが、その年は違った。
司会役の先輩が急に体調を崩し、遥が大役を任されることになったのだ。
文化祭前夜。
誰もいない校舎に残り、遥は放送室で原稿を読んでいた。
窓の外には夕焼けが広がっている。
グラウンドの向こうでは、文化祭の準備をする生徒たちの声が聞こえた。
原稿にはこう書かれていた。
「明日は一年に一度の文化祭です。」
それだけの文章なのに、なぜか胸が熱くなった。
何週間もかけて準備した人たち。
夜遅くまで絵を描いた人。
舞台の練習を繰り返した人。
失敗して落ち込んだ人。
笑い合った人。
そのすべてが、明日の一日に詰まっている。
遥はもう一度マイクに向かった。
今度は誰かに聞かせるためではなく、自分自身に言い聞かせるように。
すると不思議なことに、声の奥に小さな炎が灯った気がした。
派手ではない。
大きくもない。
けれど確かに燃えている。
翌日。
開会式で遥はマイクを握った。
緊張はしていた。
それでも逃げなかった。
放送室から流れた声は校庭へ、体育館へ、教室へと届いていく。
「皆さん、本日は文化祭へようこそ。」
その瞬間、会場から大きな拍手が起こった。
遥は思った。
炎のナレーションとは、激しく叫ぶことではない。
言葉の向こうにある誰かの思いを、自分の声でそっと運ぶことなのだと。
放送室の窓の外では、秋の空が青く澄み渡っていた。
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風車と怪人キリギリスの話 |
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