秋の終わりだった。
駅前の大通りを外れ、細い路地を歩いていると、古びた駄菓子屋のネオンが夕闇の中に浮かんでいた。
赤と青の光は少しくたびれていて、それでも誇らしげに店先を照らしている。
私は立ち止まった。
足元には履き慣れたモカシン。
長い年月を一緒に歩いてきた靴だった。
若い頃、このモカシンを履いて旅に出たことがある。
知らない町を歩き、知らない人と言葉を交わし、夜行列車の窓から流れる灯を眺めた。
けれど今は、ただ静かな路地を歩くだけで十分だった。
駄菓子屋のガラス越しに、色とりどりのお菓子が見えた。
十円玉を握りしめていた少年の日々。
当たりくじに一喜一憂した放課後。
夕焼けの空の下を走った友だちの顔。
ネオンの光は、それらの記憶をそっと呼び戻していた。
店先のベンチに腰を下ろす。
モカシンの先に、赤い光が映る。
ふと見ると、店の中から小学生くらいの男の子が出てきた。
ラムネを片手に、こちらを見ている。
どこか見覚えがあった。
いや、見覚えがあるのではない。
昔の私だった。
少年は何も言わずに笑った。
そしてラムネ瓶を軽く掲げると、夕暮れの向こうへ駆けていった。
私は追いかけなかった。
追いかけなくてもいいことを知っていたからだ。
あの頃は過ぎ去ったのではない。
モカシンの革の皺の中にも、
駄菓子屋のネオンの揺らぎの中にも、
今の私と一緒に歩いている。
路地に夜が降りてきた。
私はゆっくり立ち上がり、モカシンのつま先で小石をひとつ転がした。
ネオンはまだ灯っていた。
まるで、
「また来なよ」
とでも言うように。















