銀河ビズ-WEBマガジン「きゅん」

kyun.biz
最新号11月10日配信予定
イラスト
GingaBiz
編集部より

秋の終わりだった。
駅前の大通りを外れ、細い路地を歩いていると、古びた駄菓子屋のネオンが夕闇の中に浮かんでいた。
赤と青の光は少しくたびれていて、それでも誇らしげに店先を照らしている。
私は立ち止まった。
足元には履き慣れたモカシン。
長い年月を一緒に歩いてきた靴だった。
若い頃、このモカシンを履いて旅に出たことがある。
知らない町を歩き、知らない人と言葉を交わし、夜行列車の窓から流れる灯を眺めた。
けれど今は、ただ静かな路地を歩くだけで十分だった。
駄菓子屋のガラス越しに、色とりどりのお菓子が見えた。
十円玉を握りしめていた少年の日々。
当たりくじに一喜一憂した放課後。
夕焼けの空の下を走った友だちの顔。
ネオンの光は、それらの記憶をそっと呼び戻していた。
店先のベンチに腰を下ろす。
モカシンの先に、赤い光が映る。
ふと見ると、店の中から小学生くらいの男の子が出てきた。
ラムネを片手に、こちらを見ている。
どこか見覚えがあった。
いや、見覚えがあるのではない。
昔の私だった。
少年は何も言わずに笑った。
そしてラムネ瓶を軽く掲げると、夕暮れの向こうへ駆けていった。
私は追いかけなかった。
追いかけなくてもいいことを知っていたからだ。
あの頃は過ぎ去ったのではない。
モカシンの革の皺の中にも、
駄菓子屋のネオンの揺らぎの中にも、
今の私と一緒に歩いている。
路地に夜が降りてきた。
私はゆっくり立ち上がり、モカシンのつま先で小石をひとつ転がした。
ネオンはまだ灯っていた。
まるで、
「また来なよ」
とでも言うように。

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