荒野を走るランナーがいた。
朝も昼も、そして夕暮れも。
彼はどこへ向かうのか誰も知らない。
ただ風だけが、その背中を追いかけていた。
ある晩、ランナーは小さな町にたどり着いた。
町は祭りの夜だった。
屋台の灯が並び、音楽が流れ、人々が笑い合っている。
その人混みの中に、一人の女性がいた。
耳には小さな星のピアス。
夜空のかけらを閉じ込めたような、静かな輝きだった。
ランナーは不思議と足を止めた。
何年も走り続けてきたのに、立ち止まったのは久しぶりだった。
「どこへ行くのですか」
女性が尋ねた。
「わからない」
ランナーは答えた。
「ただ走っているんです」
女性は少し笑った。
そして夜空を指差した。
「あの星たちも、どこかへ向かっているように見えます。でも、本当はそこで輝いているだけかもしれません」
祭りが終わる頃、二人は丘の上にいた。
風が草を揺らし、遠くで犬の鳴き声が聞こえる。
星のピアスは月明かりを受けて、小さく瞬いていた。
ランナーは初めて思った。
急がなくてもいいのかもしれない、と。
走ることだけが旅ではない。
立ち止まり、誰かと同じ空を見上げることもまた旅なのだと。
夜明け前。
ランナーは再び荒野へ向かった。
女性は見送るだけだった。
別れの言葉も約束もない。
けれど振り返ったとき、丘の上で揺れる星の光が見えた。
それはピアスだったのか、
本物の星だったのか、
ランナーにはわからなかった。
ただ、その光が消えない限り、
どんな荒野も一人ではないような気がした。
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風車と怪人キリギリスの話 |
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